(1)挨 拶 13:00〜13:20
アルカディア街道IB倶楽部会長 錦 啓
≪挨拶要旨≫
近年、幕末・明治初期に日本を訪れた異国人の日本に関するノートが注目されている。とりわけバードの「日本奥地紀行」に対する関心が高まっている。これらの記録は、維新以来先進国に追いつこうと必死に走り続けてきた日本人がこの間に忘れてきたものを思い出させてくれる。日本の今を映し出す鏡でもある。このような意味で池内紀氏の講演が楽しみである。バードや山形の魅力をこのシンポジウムを通して開拓したい。
(2)基調講演 13:20〜14:20
講師 池内 紀氏 (ドイツ文学者、エッセイスト)
演題 「幕末明治期の異国人の旅」
≪講演要旨≫
- 島崎藤村の『夜明け前』は、オランダ人の江戸体験が書いてあるU部がおもしろい。
- 夜明け前に日本を訪れた異国人は牧師・宣教師が多いが、日本文化への同化が仕事であり、見聞録は少ない。モースは博物学者であり、日本のイメージを持ち、詳しく記録した。
- 「夜明け只中」の見聞録としては、シュリーマンとオールコックが対照的でおもしろい。シュリーマンは「民」の視線で日本の民衆の日常を細かく観察している。一方、オールコックは「官」の立場から日本の役人の隠蔽、ピンはね、怠慢を記録したが、「仕事をしないという仕事をしている」という指摘はバードの記述に重なる。異国人だから見えたのである。
- 「夜明け後」は、ハーン(小泉八雲)とモラエスが対照的でおもしろい。ハーンは「官」の立場から、欧米の猿真似をして旧い文化を惜しげもなく捨てている日本に不快感、憎悪を示した。モラエスは日本の近代化を許容し、地方には旧文化は損なわれずに残っており、民衆は旧文化のなかで生きているとした。
- たかだか30年の間に、髪型、衣装、食べ物まですべて変化したのである。バードも、レッテルは真似てあるが中身はにせものという酒に遭遇したことを書いている。異国人にとっては悲しい現象だった。
- また、バードは道路作りに囚人が動員されていることに驚いている。天井からヘビが落ちてくる話も書きとめている。こういう目で記録したものはない。
- バードの記述には神を背後にした博愛主義がある。こういう婦人を生み出した大英帝国の力を感じる。単なる好奇心・教養ではない。バードを通してヨーロッパの見方を知ることができる。
- バードは当時の日本の衛生状態、栄養状態を正確に描いた。今日本が長寿であるのは、衛生と栄養が向上したからだ。そういう意味でも「日本奥地紀行」は今の日本をあぶりだしてくれる。
(3)シンポジウム 14:30〜16:10
@テーマ 「バード」と「アルカディア街道」の魅力
Aシンポジスト 2名
大河内 邦子氏(つるおかルネッサンスの会代表、鶴岡工専教授)
黒木 あるじ氏(作家)
※福田徳郎氏(元朝日新聞出版写真部長)、佐野千晶氏(NPO法人元気まちネット理事)にも依頼していたが、それぞれ急用、大雪のため欠席
▽司会 渋谷 光夫(アルカディア街道IB倶楽部副会長)
B内 容
・「日本奥地紀行」と私、「バード」「日本奥地紀行」の魅力
・「アルカディア街道」の魅力
・「バードの歩いた山形路マップ」について
Cシンポジウムで出された主な意見
- バードの作家性、文学性の高さに注目すべきである。
- バードにちなむ菓子を創作したらどうか。
- バードが歩いた山形路の映像と『日本奥地紀行』の朗読のコラボを教育の場で進めてゆきたい。
- バードの生地は断崖と峡谷が点在する荒れ野であった。バードの思い描く理想郷は、単なる自然豊かな場所ではなく、自然が人を支え、人間もまた自然を尊重し、互いに融和している土地だったのでなないか。それを米沢平野に見いだしたということなのではないか。
- 「日本奥地紀行」は山形の人々を結ぶ絆となりうる。
- バードが歩いた山形路を旅するときの、ルートの案内、駐車場の案内が絶対的に少ない。統一した看板の設置が必要ではないか。
- バードに関連した地域おこしにかかわっている団体の紹介をマップに入れてほしい。
- マップにビューポイントを明示してほしい。
- ハイジアパークのバード展示内容が25年間変わっていない。展示内容を変えて魅力をアップすべきだ。
- これこそがバードだというものを打ち出すべきだ。
- バードの人間としての魅力の紹介にもっと力を入れるべきだ。
- スタッフも入れると約70名の参加申し込みがあった。大雪、その他の事情により参加者が57名に減少したが、バードに対する関心が高いことが窺われた。
- 参加者の中にはバードを卒業論文に選んだという山形学生や地域でまち起こしに取り組んでいる若者もおり、バードに対する関心が広い層にまで及んでいることが分かる。
- シンポジウムでは、フロアからの発言が多くあり、活発な討論を展開することができた。
- このようなシンポジウムを継続して開催してゆきたい。
- シンポジュウムの開催、「アルカディア街道マップ」の作成に援助いただいた「やまがた社会貢献基金協働助成事業」関係の皆さんに感謝申し上げます。
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